大会長挨拶
第41回日本森田療法学会森田正馬 生誕150周年記念 高知大会
大会長 高橋 秀俊
(高知大学医学部寄附講座 児童青年期精神医学 特任教授)
高知大学医学部寄附講座児童青年期精神医学の高橋秀俊と申します。この度、2024年12月7日(土)~8日(日)に、高知県民文化ホールにおきまして第41回日本森田療法学会を開催する運びとなりました。高知県香南市出身の森田正馬先生の生誕150周年にあたる記念すべき年に、高知県で日本森田療法学会を開催できることを大変光栄に存じます。森田正馬先生のご実家である「旧森田家住宅」(通称:森田正馬先生生家)が、国の有形文化財(建築)に本年登録されました。本大会にご参加になられる皆様には、是非森田正馬先生の生家や墓所をお参りいただけると幸いです。本大会を通じて森田正馬先生を生んだ高知らしさを届けられるよう、スタッフ一同鋭意努力いたします。どうぞよろしくお願い申し上げます。
本大会は、「原点から紡ぐ多様な支援 精神療法のレジェンドを継承しライフステージを通して持続可能な多職種地域連携を共創する」というテーマのもと開催をいたします。私は、これまで自閉スペクトラム症を中心とする発達障害や精神障害の感覚情報処理に関する神経生理学的研究や、ライフステージを通した多職種多領域の地域連携、コンサルテーション・リエゾン精神医学などを主な研究テーマとしておりました。子どもの心のケアに加え、学校メンタルヘルス、産業精神医学、災害時の心のケアなど、様々な領域の臨床や研究に関わってきました。平成から令和に変わった2019年に高知大学に赴任し、コロナ禍にあって、子どもの心の診療体制整備に従事してまいりました。森田正馬先生が活躍された19世紀末から20世紀初頭にかけては、産業革命のあと第一次世界大戦やスペイン・インフルエンザ、関東大震災といった戦争やパンデミック大規模自然災害など世界的に激動の時代でした。社会の大きな変動に適応できない多くの人々がメンタルヘルスケアのニーズを有し、現代社会が直面する様々な課題とも多くの共通点があります。
メンタルヘルス課題の解決のための多職種多領域の地域連携の実践には、メンタルヘルス・リテラシーに関する共通理解が必須です。私が専門とする子どもの心のケアのためには、家族全体の心のケアが必要で、医療だけでなく福祉や保健、教育など様々な支援者との連携が必要です。さらに、森田神経質と共通点の多い発達障害特性は、世代を超えてライフステージを通して如何なる人にも程度の差はあれ認めます。異なる専門性をもつ人が、メンタルヘルスケアに関する共通の認識のもとに同じ方向を向いて、地域全体の心のケアを行う必要があります。そのためには、時代や専門性を超えて理解できる、普遍的な共通の言葉が必要になります。
森田正馬先生は、メンタルヘルスに関する知識が現代ほど浸透していなかった時代に、精神疾患に苦しむ当事者の方々のために、感覚的に理解しやすい素直な言葉を用いて、精神疾患の病態や対応方法を説明され、現在の自助グループ、ピアサポートにつながります。一方で生物学的精神医学的な研究により、前世紀の終わりころから、精神疾患の社会生活機能は精神症状よりも認知機能などの内的な表現型(エンドフェノタイプ)の影響の方が大きいこと、精神疾患の精神症状の改善だけでは社会生活機能の向上にはつながらないことが報告されています。精神症状にとらわれず、それぞれの人生を自分らしく生きつくすために開発された、森田神経質の特徴に応じた支援法である森田療法は、世紀を超えて、ますますその重要性が増してくるでしょう。社会の大きな変動の中でも、われわれは、おかれた境遇の中で、自分たちに与えられた役割を、あるがままに全うしていくしかありません。本学会の専門医は、日本精神神経学会の学会認定サブスペシャルティ(精神科サブスペシャルティC群(精神科関連領域))にも認定されています。現在の多職種地域連携を要する我が国の多くのメンタルヘルス課題に対応するために、原点にかえって森田療法を学び活用していきましょう。ぜひ、多くの皆様のご参加をお待ち申し上げております。